「安くなった今が買い時。長期で持てばいつかは上がるはず」
TMFやレバレッジETFへの投資で、そんな風に考えていませんか?その考えは、あなたの資産を危険に晒す、典型的な落とし穴です。
2022年からの急激な金利上昇局面で、TMFを長期保有した投資家の多くが、想像を絶する含み損という塩漬け地獄に直面しています。なぜ「ナンピン買い」や「ガチホ」といった一般的な投資戦略がTMFにおいて致命的なのか、そのリスクを具体的なデータと3つの理由から徹底解説します。
※本記事はレバレッジETFのリスクに関する投資教育を目的としており、特定の投資行動を推奨・勧誘するものではありません。すべての投資判断は自己責任でお願いします。
【衝撃】2022年からTMFを塩漬けした投資家の悲惨な現実
まず、目を背けずに現実を直視しましょう。
もし2022年1月の高値圏でTMFを100万円分購入し、2024年12月まで長期保有し続けた場合のシミュレーション結果は、あまりにも残酷です。
- 2022年1月(投資額): 100万円(当時の価格 約$30)
- 2024年12月(評価額): 約15万円(当時の価格 約$4.5)
- 損失率: 約-85%
「長期投資は報われる」という投資の常識が、レバレッジETFであるTMFには一切通用しないことが、この結果から痛いほどわかります。
なぜこのような悲惨な結果を招いてしまうのか?その核心的な理由を3つの観点から解説します。
理由①:毎日資産が目減りする「ボラティリティ・ドラッグ」の罠
TMFの長期保有を不可能にする最大の要因が、ボラティリティ・ドラッグによる減価です。これはレバレッジETFが構造的に抱える避けられない欠陥です。
上下動だけで資産が削られる数学的欠陥
例えば、原資産である米国長期国債が1週間で以下のように上下動を繰り返したとします。
【原資産(米国長期国債)の値動き例】
- スタート: 100円
- 月曜日: 100円 → 105円
(+5%)
- 火曜日: 105円 → 100円
(-4.76%)
- 水曜日: 100円 → 105円
(+5%)
- 木曜日: 105円 → 100円
(-4.76%)
- 金曜日: 100円 → 105円
(+5%)
- 週間リターン: +5%
この間、TMFの価格はどう動くでしょうか。単純計算では+5% × 3倍 = +15%
になりそうですが、現実は異なります。
【TMF(3倍レバレッジ)の実際の値動き】
- スタート: 100円
- 月曜日: 100円 → 115円
(+15%)
- 火曜日: 115円 → 98.58円
(-14.28%)
- 水曜日: 98.58円 → 113.37円
(+15%)
- 木曜日: 113.37円 → 97.18円
(-14.28%)
- 金曜日: 97.18円 → 111.76円
(+15%)
- 週間リターン: +11.76%
ご覧の通り、理論値である**+15%には遠く及ばず、約3.24%ものリターンが消失しました。これがボラティリティ・ドラッグ**の正体です。価格が上下するだけで、リターンが削られていくのです。
年間10%超の減価も起こりうる
TMFのようにボラティリティ(価格変動率)が高い商品では、横ばい相場が続くだけで年率10%〜15%もの減価が発生することがあります。
- 日々のリバランスによる複利効果の歪み
- ボラティリティが高いほど減価は加速する
- 長期保有するほど影響は雪だるま式に蓄積する
特に2022年以降の長期金利が乱高下する相場では、この減価の影響が顕著に現れました。
理由②:リターンを確実に蝕む「高い経費率」
TMFの年間経費率(信託報酬)は**約1.05%**です。これは一般的なインデックスファンド(例:S&P500連動型で0.1%程度)と比較して、10倍以上も高いコストです。
長期保有でボディブローのように効くコスト
この**1.05%**という経費率は、複利であなたの資産を内側から削り取ります。
- 10年間保有した場合のコスト: 約-10%
これはあくまで価格変動がゼロの場合の計算です。実際には、前述のボラティリティ・ドラッグとこの高い経費率がダブルパンチとなり、投資家のリターンを確実に蝕みます。
レバレッジETFの高い経費率の理由
- デリバティブ取引のコスト: 先物やスワップ契約の維持管理費用
- 日次リバランスのコスト: 毎日の煩雑なポートフォリオ調整費用
- 資金調達コスト: レバレッジをかけるための借入金利
これらの複雑な運用コストが、すべて投資家に転嫁されているのです。
理由③:数年間浮上できない「金利サイクル」の恐怖
2022年以降、FRB(米国連邦準備制度理事会)は歴史的なスピードで急激な利上げを実施しました。
【参考:政策金利の推移】
- 2022年1月: 0.25%
- 2023年7月: 5.25%(ピーク)
- 2024年12月: 4.50%(シミュレーション値)
金利が上昇すると債券価格は下落します。TMFは、その下落の3倍のダメージを受ける商品です。
TMFのナンピン買いがいかに危険だったか
2022年からTMFを長期保有し、さらに下落局面で買い増し(ナンピン)した投資家の仮想シナリオを見てみましょう。
- Aさん(30代会社員)の場合:
- 2022年1月: 「利上げは一時的。今がチャンスだ」とTMFに300万円投資。
- 2022年12月: 評価額が150万円に減少(-50%)。「長期で見れば大丈夫。むしろ買い増しだ」と焦る。
- 2023年12月: 100万円を追加投資するも、評価額はさらに減少し60万円に。
- 2024年12月: 合計400万円を投じた結果、評価額は80万円に。損失額320万円、損失率-80%で塩漬け地獄が完成。
歴史的に見ても、金利の上昇・高止まり局面は数年間続くことが多く、安易な「ガチホ」戦略がいかに危険かを物語っています。
【結論】TMFは「ロマン砲」。長期安定資産ではない
TMFの長期保有が絶対NGな理由をまとめます。
- ボラティリティ・ドラッグ: 構造的欠陥により、持っているだけで資産が減価する。
- 高い経費率(1.05%): 高コストが複利でリターンを削り続ける。
- 金利サイクル: 一度ハマると数年間浮上できないリスクがある。
これらの要因が複合的に絡み合うことで、2022年からの保有者は**-85%**という壊滅的な損失を被ることになったのです。
TMFとの正しい付き合い方
TMFは長期保有する資産ではありません。「ロマン砲」として短期決戦でのみ有効なトレーディングツールです。
- 保有期間: 数日〜数週間の短期売買に徹する
- 投資金額: 全資産の5%以下の余裕資金に限定する
- ルール: 明確な利益確定・損切りルールを事前に決める
- 心構え: 「宝くじ」感覚で、無くなっても良い資金で投資する
TMFをポートフォリオの中核に据えるような、長期投資の対象として考えるのは絶対にやめてください。あなたの資産を守るために、この事実を肝に銘じましょう。
【上級者向け】独創的アプローチと戦略的代替案
視点①:ドラッグ調整後デュレーション(DAD)
レバレッジETFをデュレーション調整目的で使う場合、「ボラティリティ・ドラッグによる実質的なデュレーション短縮」を考慮するDADという概念が重要です。
DAD = 原資産デュレーション ÷ (1 + 年間ドラッグ率)
例えば、原資産のデュレーションが18年、TMFの年間ドラッグ率が15%なら、DAD = 18 ÷ 1.15 ≒ 15.7年
となります。期待したリスク感応度(3倍)が得られず、ヘッジが機能しない可能性を可視化できます。
視点②:戦略的代替案
TMFの高いコストとドラッグを回避するなら、以下の代替案も存在します。
- 先物+キャッシュ: 10年国債先物とT-Billの組み合わせ。低コストだがロール管理が必須。
- OTMコールの分散購入: 最大損失をプレミアムに限定し、上昇局面のみを狙う。
これらはより専門的ですが、コスト効率を重視する上級者向けの戦略です。
最終セルフチェック
- 値ごろ感だけで、金利サイクルを俯瞰せず買っていないか?
- ポートフォリオの10%を超える比率をTMFに投じていないか?
- 明確な損切りルールを設定しているか?
一つでも当てはまるなら、あなたは塩漬け地獄への一歩を踏み出している可能性があります。ポジションの見直しを強く推奨します。